人工血管置換術

5. 人工血管置換術

大動脈瘤は?

治療の原則は、破裂や解離をさせないことです。よって、こういった危険性がある場合に、動脈瘤を人工血管にて置き換えることが必要となります。手術する必要がない場合、あるいは手術が不可能な場合は破裂しないように予防するしかありませんが、どのように予防しても動脈瘤がある限り破裂の危険性はあります。また、薬では動脈瘤を小さくすることはできません。

そこで、“こぶ”の部分を切除して人工血管と置き換える「人工血管置換術」を行います。人工血管は合成繊維のポリエステル(ダクロン)でできており、耐久性に問題はありません。開胸または開腹手術による人工血管置換術は安全性が高く、現在は第一の選択といえます。

人工血管

化学繊維(ダクロン)を網目状に織ったチューブ型のものです。現在の人工血管の耐久性は数十年以上ですので、まず入れ替えの必要はありません。しかし感染に対して弱いため、注意が必要です。例えば歯科治療などの際には、人工血管が体内にあることを歯科医に告げてください。抗生物質投与などが追加されます。一旦、人工血管が感染した場合、治療は非常に困難で、人工血管を入れ替える手術が必要になる場合があります。

人工血管

人工血管置換術

人工血管置換術
  • 解離性大動脈瘤

急性の場合で、上行大動脈に解離がある「A型解離」では緊急手術が必要で、「B型解離」では、破裂や重要な臓器の血流障害など合併症のない場合、降圧療法を行います。

  • 上行大動脈瘤

上行大動脈の“こぶ”部分を人工血管に置き換えます。合併症状がなければ、手術は安全に行われ、待機手術の死亡率は1~3%程度です。

上行大動脈瘤は心臓、脳の血管に近いということで、体外循環を使用し心臓を停止させたり、頭への動脈を遮断したり再建する必要があることから、危険性は増します。合併症としては心機能が低下すること、脳合併症(脳梗塞)が重大な合併症であります。

弓部大動脈瘤
  • 弓部大動脈瘤

真性の胸部大動脈瘤の中では約50%を占め、最も発生率が高い“こぶ”です。高齢者に多く、ほとんどの場合、動脈硬化が原因です。動脈硬化物による脳塞栓が起こらないよう注意しながら、弓部大動脈全体を人工血管に置き換えます。

手術中に脳の血流を保つ「脳保護法」が確実に行われるようになって手術成績が上がりました。待機手術では死亡率は5%程度になり、術後に脳障害を合併する頻度も5~20%と減少しています。

下行大動脈瘤
  • 下行大動脈瘤

弓部大動脈瘤に次いで多い胸部大動脈の“こぶ”です。心臓や肺に大きな合併症がなければ、安全に人工血管に置き換えることができます。待機手術の死亡率は、3~6%程度です。

胸腹部大動脈瘤
  • 胸腹部大動脈瘤

“こぶ”が広範囲にわたることが多いので、手術が最も大変なケースです。開胸して体外循環を使用します。大動脈から枝分かれして血液を供給される臓器も、肝臓、小腸、大腸、膵臓、腎臓、脊髄など広範囲にわたり、とくに手術中に脊髄の保護が充分でないと、下半身のまひ、感覚障害、排尿、排便障害が7~8%に起こる危険があります。また、脳合併症、肺合併症、急性腎不全や出血の危険性もあります。手術はこれらに注意しながら進めます。待機手術の死亡率は5~20%程度です。

  • 腹部大動脈瘤

腹部の“こぶ”は増加傾向にあり、80歳以上の男性の頻度も高くなっていますが、この手術に年齢制限はありません。“こぶ”を「直型人工血管」か「Y字型人工血管」に置き換えます。成績は良好で、待機手術の死亡率は1%以下になっています。ただし、破裂した場合の緊急手術での死亡率は依然高く、30%前後となっていますから、50mm以上の腹部大動脈瘤は積極的に外科治療を行うべきです。手術後の合併症としては、腸の機能が低下したり、癒着で腸閉塞になる場合があります。

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